社内のAI活用は進んでいる。では、市場の変化は?
AIへの導入意欲において、日本は世界トップです。調査では、日本の92%の事業者がAI導入意向を示しており、グローバルでも際立った数値となっています。(出典:Shopify AI活用調査)
しかし、この意欲が収益に直結する領域では、まだ十分に活かされていません。マーケティング施策へのAI活用は日本29%に対しグローバル47%、顧客体験のパーソナライズは日本20%に対しグローバル33%。(出典:Shopify AI活用調査) コンテンツ生成やデータ分析といった「インプット領域」では一定進みつつある一方、「売る・届ける」への転換が進んでいないのです。
AI投資の多くは、今は社内に向いています。業務効率化、コンテンツ生成、データ分析——それは正しい判断です。ただし、同時進行している変化があります。消費者の「買い方」そのものが、AIによって再設計されつつあります。この外側の変化に、どれだけ備えられているでしょうか。
AIが「買い物」をする時代へ
「エージェンティックコマース(Agentic Commerce)」と呼ばれる変化が、すでに世界規模で進行しています。AIエージェントが、ユーザーに代わって商品を検索し、比較し、購入を完結させる。この流れは、スマートフォンが購買行動を一変させた2010年代の「モバイルコマース革命」と同じ構造を持っています。
あのとき、モバイル対応を後回しにした企業は市場の変化に乗り遅れました。今、同じことがAIの領域で起きようとしています。
McKinseyの試算によれば、AIが介在するコマース市場は2030年までに約750兆円規模に達する見込みです。Bain & Companyのデータでは、すでに米国のeコマース売上の25%以上がAIによって影響を受けているとされています。
日本も例外ではありません。調査では、日本の消費者の半数以上がすでに購買にAIを活用していると回答しています。(出典:Shopify ホリデーリサーチ) Shopifyのマーチャントのデータでは、AIチャネル経由の注文数が前年比15倍以上に増加し、平均注文単価は従来チャネルより30%高く、新規顧客獲得率は2倍に達しているケースも報告されています。(出典:Shopifyプラットフォームデータ) これは5年後の話ではなく、今まさに進行中の変化です。
エージェントに選ばれない——3つのビジネスリスク
AIエージェントは、人間とは異なる基準で商品や企業を評価します。ウェブサイトのデザインには反応せず、感情的な広告訴求も届きません。判断の根拠になるのは、構造化されたデータ、豊富なコンテキスト情報、そして信頼性の証明です。
これは、経営の観点からは3つのビジネスリスクを意味します。
1. 比較対象に入れない(発見されないリスク)
Googleの検索セッションの60%はすでに「ゼロクリック」—— ユーザーはウェブサイトを訪問することなく答えを得ています。 従来の「検索→サイト誘導→購買」というジャーニーが、すでに機能しなくなりつつあります。機械が読める形式で商品情報が整備されていなければ、AIエージェントの検索結果に表示されません。広告費をかけても、AIには届かない。
2. 選ばれない(競争力のリスク)
AIエージェントは「このユーザーの意図に最も合う選択肢」を選びます。ブランドの背景、使用シナリオ、信頼性の実績 —— これらのコンテキストが薄い企業は、同じ価格帯の競合に負けてしまいます。
消費者も同様に、信頼を慎重に見ています。日本の消費者の57%が企業によるAI活用に懸念を示し、67%が「人から購入することが重要」と答えています。(出典:Shopify ホリデーリサーチ) AIコマースの利便性を求めながらも、どの企業を信頼するかは、消費者が判断します。ブランドの文脈と信頼性が薄ければ、消費者に選ばれません。AIコマースが普及するほど、その差は広がります。
3. 繋がれない(インフラリスク)
AIエージェントがユーザーに代わって購買を自律的に完結させるには、対応したAPIと構造化された商品データが必要です。この仕組みがなければ、エージェント経由のシームレスな取引には対応できません。
御社のコマース基盤は、この変化に対応できていますか
国内企業の多くがレガシーシステムに依存しているという現実があります。 システムの保守期限、セキュリティ脆弱性、エンジニア不足——これらの課題は、エージェンティックコマースへの対応を遅らせる直接的なボトルネックになります。
もう一つ、問い直してほしいことがあります。御社の顧客データは、自社に蓄積されていますか。ECモール経由の売上が中心の場合、顧客データはモール側に帰属し、自社には残りません。AIエージェントが購買を仲介する時代に、自社の顧客データがなければ、パーソナライズも信頼性の証明もできません。
インフラの見直しには、意思決定から実装まで時間がかかります。AIエージェントの普及を「見極めてから動く」という判断は、モバイルコマース革命のときと同じ轍を踏む可能性があります。
「守り」と「攻め」を同時に実現する基盤
エージェンティックコマース時代に求められるのは、「AIに対応した機能の追加」ではなく、コマース基盤そのものの再設計です。具体的には、以下の2つの軸で基盤を整備する必要があります。
-
守り:セキュリティ・コンプライアンス・データガバナンスの強化と、ベンダーロックインからの脱却。外部環境の変化に左右されない、安定した事業基盤を築きます。
-
攻め:AIエージェントが読み取れるデータ構造の整備、AI活用による生産性向上、次世代インフラへの段階的移行。変化を機会に変える、成長のための基盤を整えます。
この両方を同時に実現することが、今後の競争優位の源泉になります。そして、すでに具体的な動きも始まっています。
ShopifyはGoogleと共同で、AIエージェントに本格的なコマース機能を提供するためのオープンスタンダード「Universal Commerce Protocol(UCP)」を開発しました。日本国内の企業においても、米国向けに販売しているShopify利用企業であれば、ChatGPT上で商品を発見・購入してもらえるようになりました。さらに、Google検索のAI ModeやGeminiアプリ上でも一部ブランドが販売を開始しており、Shopifyを利用する企業はこれらのAIチャネルを通じて商品を販売できるようになります。
内部効率のためのAI機能を後付けするのではなく、エージェントとの取引を前提として設計されたインフラです。「守り」も「攻め」も妥協しない——それが、他のプラットフォームとの根本的な違いです。
今、経営層に求められる問い
エージェンティックコマースは、今まさに広がっています。市場が形成されるこのタイミングに動くかどうかが、今後の競争優位を大きく左右します。
モバイルコマースも、ソーシャルコマースも、先行した企業が市場の成熟とともに大きなシェアを手にしました。その差は「少し早かった」からではなく、データの蓄積・アルゴリズムの学習・組織の適応力が、時間をかけて複利的に積み上がったからです。
自社のコマース基盤がこの変化にどこまで対応できているか。まずその現状を把握することが、最初の一歩になります。
「ECサイト完結モデル」の終焉——その先に何があるか。
奥谷孝司氏 × Shopify 対談ウェビナー。エージェンティックコマースの本質、従来モデルが迎える構造的変化、そしてレガシー資産をどう再評価するか。
自社のコマース基盤がエージェンティックコマース時代に対応できているか、Shopifyの専門家と一緒に整理しませんか。





