事業が成長してくると、受注対応や発送、顧客対応、経理など、一人で業務を回しきるのが難しくなってきます。そんなときに考えたいのが、従業員を雇うことです。人を採用できるようになると、日々の業務を分担しやすくなり、新しい施策や売上アップにも取り組みやすくなります。 とはいえ、どうやって採用を進めればいいのか、正社員・契約社員・パート・アルバイトのどの形が合っているのか、迷う人も多いでしょう。また、日本で従業員を雇う場合は、労働条件の明示、労働保険や雇用保険の手続き、条件によっては健康保険・厚生年金など、人事や労務の実務も必要になります。
この記事では、採用プロセス、優秀な人材の探し方、費用、保険や書類などの必要な手続きまで、従業員を雇う方法をわかりやすく解説します。

従業員を雇うプロセス
1. 採用の目的と任せる仕事を整理する
従業員を雇うときは、まず「なぜ採用するのか」を整理することが大切です。
たとえば、受注対応や発送を任せたいのか、接客を強化したいのか、経理や事務作業を分担したいのかによって、求める人物像は変わります。必要なスキルだけでなく、どのくらいの業務量を任せたいのか、どこまで社内で教えられるのかもあわせて考えておくと、その後の募集条件を決めやすくなります。
まずは、任せたい仕事と採用の目的を整理し、自社にとって必要な役割を明確にすることから始めましょう。
2. 雇用形態を決める
採用の目的と任せる仕事が見えてきたら、次にどの雇用形態で人を迎えるかを決めます。雇用形態によって、任せやすい業務、働いてもらう期間、固定費、必要な手続きが変わるためです。主な雇用形態には次があります。
- 正社員:長期的に働いてもらうことを前提とした雇用形態です。継続して戦力になってもらいやすい一方で、毎月の固定費が発生するため、長く雇用できる体制が必要です。
- 契約社員:契約期間を定めた雇用形態です。業務量を見ながら体制を整えたいときに向いています。一方で、契約更新の管理が必要で、長期的な定着を前提にしにくいことがあります。
- パート・アルバイト:短時間勤務や特定の時間帯の業務を任せたい場合に向いています。発送作業、接客、事務など、作業を切り分けて任せやすい一方で、シフト管理や保険の確認が必要です。
- 業務委託:厳密には雇用契約ではありません。帳簿上の分類も、業務委託への支払いは「給与」ではなく「外注費」になります。デザイン、経理、SNS運用、記事制作など、専門業務を委託したい場合に向いています。人件費を抑えやすい反面、従業員のように働き方を細かく指示することはできません。
雇用形態を決めるときは、今すぐ必要な人手なのか、長く社内で育てたい役割なのかを基準に考えると整理しやすくなります。任せたい仕事に合う形を選ぶことが大切です。
3. 採用基準を整理する
雇用形態が決まったら、次にどんな人を採用したいのかを整理します。ここが曖昧なままだと、応募が来ても判断基準がぶれやすくなり、採用後のミスマッチにもつながります。
たとえば、即戦力として経験者を採用したいのか、未経験でも育てながら任せたいのかで、見るべきポイントは変わります。次のように分けて考えると進めやすくなります。
- 最低限必要な経験やスキル
- あれば望ましい経験や資格
- 勤務できる曜日や時間帯
- 社内でどこまで教えられるか
- どんな働き方や雰囲気が自社に合うか
特にスモールビジネスでは、経歴の華やかさだけでなく、今のチームの雰囲気や業務の進め方に合うかどうかも大切です。理想の条件を増やしすぎると応募が集まりにくくなるため、「必須条件」と「歓迎条件」を分けて考えると、現実的な採用基準を作りやすくなります。
4. 求人を出す先を決める
採用基準が整理できたら、求める人物像や採用の緊急度に合わせて、求人の掲載先を選択しましょう。
- ハローワーク:無料で求人を掲載できる公的なサービスです。まずは費用を抑えて募集したい場合や、地域で採用したい場合に向いています。
- 民間の求人媒体:幅広く募集したいときに向いています。Indeed、engage、求人ボックスのように無料で始められるサービスも、リクナビNEXTやマイナビ転職のように掲載料がかかるものもあります。給与や待遇だけでなく、会社のミッションや価値観への共感を重視する場合、Wantedlyというサイトもあります。
- 自社サイト:会社の雰囲気や仕事内容をあわせて伝えやすい一方で、サイトへの流入が少ないと応募が集まりにくいことがあります。
- SNS:日ごろの発信を通じて、社風や働き方に関心を持った人にアプローチしやすい方法です。仕事内容や勤務条件もあわせてわかりやすく伝えることが大切です。
- 知人や取引先からの紹介(リファラル):人柄や相性をある程度イメージしやすい採用方法です。小規模事業では有力な方法になりやすい一方で、紹介だからこそ条件確認や選考を曖昧にしないことが大切です。
どの方法を使う場合でも、仕事内容、雇用形態、勤務時間、給与、勤務地、応募条件などは具体的に伝えましょう。幅広く応募を集めたいのか、相性を重視したいのかを考えながら、採用チャネルを使い分けることが大切です。
5. 面接・選考を行い採用を決める
応募が集まったら、書類確認や面接を通して採用を進めます。面接では、会社やチームとの相性や、経験、スキル、任せたい業務との相性などを探りましょう。また、出勤できる曜日や時間帯、これまでの業務経験、どのくらいの期間働きたいかなどを具体的に確認しておくと、採用後のミスマッチを防げます。
理想を追い求めるのではなく、自社に必要な役割を無理なく担ってもらえるかという視点で判断し、条件をすり合わせながら採用を決めましょう。

従業員を雇う前に必要な実務準備
給与と給与以外にかかる費用を把握する
従業員を雇うときは、給与水準に加えて、求人掲載費や備品代、教育コストなども見込んでおく必要があります。社会保険の加入対象になる場合は、健康保険や厚生年金保険の保険料を事業所も負担することになります。
特に小規模事業では、採用後の固定費が想定より大きくなりやすいため、「給与を払えるか」だけでなく、「周辺コストを含めて継続して負担できるか」まで確認しておくことが大切です。採用後に必要な売上や、損益分岐点がどう変わるかも見ておくと安心です。
雇用保険・社会保険・労働保険の対象を確認する
従業員を雇うときは、どの保険の対象になるかを確認する必要があります。主に確認したいのは、次の保険です。
- 労災保険:従業員が仕事中や通勤中にけがや病気をした場合に備える保険です。労働保険の一つで、原則として労働者を1人でも雇えば対象になります。
- 雇用保険:従業員が失業した場合や、働き続けることが難しくなった場合などに、生活や雇用の安定を支えるための保険です。原則として、週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある労働者が対象です。パートやアルバイトでも、条件を満たせば加入が必要になります。
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険):病気やけがの医療費負担、老後の年金に関わる保険です。短時間労働者でも条件を満たすと対象になります。
このうち、労災保険と雇用保険をあわせて「労働保険」 といいます。社会保険については、法人か個人事業か、会社の規模、勤務時間などによって対象が変わるため、雇用形態の名前だけで判断せず、実際の働き方をもとに確認することが大切です。
労働条件通知書や就業規則を準備する
採用が決まったら、労働条件を書面で整理します。労働契約を結ぶ際は、賃金、労働時間、就業場所、業務内容などの条件を明示する必要があります。労働条件通知書を準備し、雇用契約書を取り交わしましょう。
また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が必要です。10人未満の場合、法的な作成義務はありませんが、労働条件や職場のルールを明確にし、労使トラブルを防ぐためにも就業規則を作成しておくことが推奨されます。自社で作成することもできますが、内容に迷う場合は社会保険労務士に相談しましょう。

優秀な人材を探すには
自社に合う人物像を明確にする
優秀な人材とは、必ずしも経歴が華やかな人とは限りません。特に少人数の会社では、スキルや経験だけでなく、どんな姿勢で仕事に向き合う人に来てほしいか、という点が大切です。
たとえば、自分で考えて動ける人がよいのか、丁寧に確認しながら進める人がよいのか、変化の多い環境を前向きに楽しめる人がよいのかによって、求める人物像は変わります。
必要な経験や資格だけでなく、どんな働き方を期待するのか、どのような役割を担ってほしいのかを整理しておくと、自社に合う人材を見つけやすくなります。
求人票に仕事内容と条件を具体的に書く
応募の質を高めるには、求人票の内容を具体的にすることが大切です。仕事内容、勤務時間、給与、勤務地、応募条件などが曖昧だと、応募者は自分に合う仕事か判断しにくくなります。
たとえば「EC運営全般」と書くよりも、「受注対応」「梱包・発送」「問い合わせ対応」など、実際に任せる業務が伝わる書き方のほうが、応募の質が高まり、ミスマッチが減らせます。
採用チャネルを使い分ける
採用方法によって、集まりやすい人材は変わります。幅広く募集したいなら求人媒体、地域で採用したいならハローワーク、会社の雰囲気や価値観への共感を重視したいなら自社サイトやSNS、相性を重視したいなら紹介採用(リファラル採用)が向いています。
ひとつの方法に絞るのではなく、どんな人に来てほしいかを考えながら採用チャネルを使い分けることが、優秀な人材に出会う近道になります。
給与や働く条件を整える
優秀な人材を採用するには、仕事内容だけでなく、給与や働く条件もわかりやすく整えておくことが大切です。給与、勤務時間、休日、勤務地、雇用形態などが曖昧だと、応募の段階で不安を感じられやすくなります。
また、小規模な事業所では大企業と同じ条件を用意するのが難しいこともあります。その場合は、柔軟な働き方や役割の広さ、裁量の大きさなど、自社ならではの魅力を明確に伝えることも有効です。応募者が「ここで働くイメージ」を持てるよう、条件や求める人物像はできるだけ具体的に伝えましょう。
研修とサポート体制を整える
優秀な人材を採用しても、入社後に十分な説明やフォローがなければ、力を発揮しにくくなります。そのため、採用前の段階で、どのように業務を教えるか、誰がサポートするかを考えておくことが大切です。
たとえば、最初に任せる仕事を絞る、業務マニュアルを用意する、相談先を決めておくといった準備があるだけでも、入社後の不安を減らしやすくなります。採用は、入社して終わりではありません。安心して働き始められる環境を整えることが、定着率の向上につながります。
まとめ
従業員を雇うときは、まず採用の目的を整理し、任せたい仕事や雇用形態、採用基準を明確にすることが大切です。そのうえで、自社に合う採用チャネルを選び、仕事内容や条件が伝わる求人を出すことで、ミスマッチを防ぎながら採用を進めやすくなります。
また、実際に従業員を雇う際は、給与だけでなく、備品代や教育コスト、保険料の事業主負担なども含めて考える必要があります。採用後に赤字にならないかを確認しながら、雇用保険や社会保険、労働保険の対象を確認し、労働条件通知書や就業規則などの書類も整えておくことが大切です。
人を雇うことは、単に人手を増やすことではなく、事業を次の段階へ進めるための準備でもあります。採用の流れと実務準備を一つずつ整理しながら、自社に合う形で無理のない採用を進めていきましょう。
雇用に関するよくある質問
パートやアルバイトでも保険に加入する必要がある?
あります。雇用保険は、雇用形態にかかわらず、原則として週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある場合に加入が必要です。
社会保険についても、短時間労働者でも 週20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、2か月を超える雇用の見込みがある、学生ではない などの条件を満たすと、健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。短時間勤務だから加入不要とは限らないため、雇用形態の名前ではなく、実際の勤務条件で判断することが大切です。
就業規則は必要?
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が必要です。ここでいう10人には、正社員だけでなく、パートやアルバイトも含まれます。判断は会社全体ではなく、事業場ごとに行います。
10人未満の場合は法的な作成義務はありませんが、労働条件や職場のルールを明確にし、労使トラブルを防ぐためにも作成しておくと安心です。
個人事業主でも従業員を雇える?
個人事業主でも従業員を雇えます。その場合も、労働者を1人でも雇えば、原則として労働保険の適用対象になります。雇用保険については、原則として週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある人は加入対象です。
文:Taeko Adachi





