働き方が多様になり若年層の起業が増えている今、学生起業に踏み出す小学生や中学生も見られるようになりました。先行きが見えない現代では、自ら考え行動する力が今まで以上に求められていることから、若年層へのアントレプレナーシップ教育が盛んになっています。こうした主体性・判断力の育成教育が、子供たちの起業への挑戦を後押ししています。
この記事では、子供が起業した事例を集めて紹介します。事業を始めたきっかけやアイデア、成功に至った理由についても解説していますので参考にしてください。
子供の起業体験に注目が集まる背景

子供の起業体験に注目が集まる理由には、社会の不確実性が挙げられます。経済や地球環境の脆弱化、地政学的リスクの高まり、デジタル化などが複雑に絡み合い、将来を予測するのが困難な時代となりました。こうした背景から、起業体験を通して、子供のうちから主体性や意思決定力を育成したいという社会の教育的ニーズが高まっています。
近年日本国内では、ジュニアビジネススクールやビジネスキャンプ、子供起業塾、起業体験推進事業など、子供の起業を推進したりビジネスに触れたりする機会を与える事業が全国各地で行われています。子供向けの起業アイデアを見つけるコツの紹介から、学生起業の始め方、ビジネスの現場で重要とされる思考やスキルの習得、起業家精神を培うプログラムまで、さまざまな事業が展開されています。
こうしたアントレプレナーシップ教育は、子供が社会課題を自ら発見し、解決に向けて行動できる力を育むものであり、起業に限らず、さまざまな分野で活躍するための基盤を形成する重要な役割を担っています。
子供の起業例5選

1.「こどもLabo」浜口祐衣(起業当時:小学5年生)
浜口氏は、小学5年生の時に小学生向けの学習塾「こどもLabo」を立ち上げました。きっかけとなったのは、友人に高校生になったらどんなアルバイトをしたいか尋ねられたことです。人に雇われて働くのではなく自分で起業したいと考え、鈴鹿商工会議所主催の大人向け起業セミナー「すずか創業塾」に参加しました。このとき他の参加者の影響を受け、起業に向けて真剣に取り組むようになったと振り返っています。
浜口氏は起業にあたり、自分が得意とする勉強を教える事業にしようと考えました。そこでたどり着いたのが学生塾です。父は車のカスタムショップ経営、母はネイル教室を開講していることから、起業家の両親にも相談しながら起業を実現させました。
生徒たちと年齢が近い浜口氏の存在は、先生や親など大人には質問しにくいと感じる生徒たちのニーズとマッチし、楽しく学べる場を提供しています。
2.「株式会社polarewon(ポラレウォン)」レウォン(起業当時:小学6年生)
レウォン氏は、小学6年生の時に藤野英人氏、阿比留正弘氏、植松努氏、そして野中利明氏を取締役とする株式会社polarewonを立ち上げました。
起業のきっかけとなったのは、白い一般的な上履きを時代にあった心地よい履き物として革新を目指す「UWABAKIプロジェクト」を進めているときのことです。レウォン氏は起業する前も、学習ツールの「元素カルタ」や「漢字mission」の考案・商品化を成功させてきましたが、自作で上履きを作るのには限界がありました。試作するには企業の協力が必要でしたが、子供という理由で協力が得られなかったため、起業に踏み切ります。
現在、レウォン氏は、自分自身が感じるモヤモヤや違和感をイノベーションの原動力とし、イベントや研修、製品化などさまざまな事業を行っています。さらに、起業プレゼン・リアリティショー「メイクマネー U-24」で堀江貴文氏に高く評価されたプレゼン力を活かしてプレゼン動画作成の依頼も受け付けるなど、新たな事業にも挑戦しています。
3.「株式会社クリスタルロード」加藤路瑛(起業当時:中学1年生)
中学1年生で起業した株式会社クリスタルロードの加藤氏は、親子起業で会社を立ち上げました。小中高校生向けの職業探求Webメディア「TANQ-JOB」の運営を皮切りに、現在では感覚過敏研究所を立ち上げて啓蒙活動と関連商品販売事業も行っています。「年齢、お金、病気、障害、性別、国籍、そして常識を理由に今をあきらめなくていい社会」を目指しており、講演やワークショップ開催、クラウドファンディングサポートといった事業にも従事しています。
起業のきっかけとなったのは、カードゲーム「ケミストリークエスト」との出会いです。小学生が親子起業という形で商品の開発・販売を実現したことを知り、幼少期から働くことに憧れていた加藤氏は自分も起業することを決意します。学校の許可を得るために、両親や担任の先生に相談しながら事業計画書を作ってプレゼンテーションを行ったのちに、クラウドファンディングで資金調達を実現しました。今後、18歳以下専用のクラウドファンディングの立ち上げを目指すなど、さらなる目標に向かって行動しています。
4.「TSUNAGU OÜ(ツナグオーユー)」井上 美奈(起業当時:小学6年生)
小学6年生で「TSUNAGU OÜ」を起業した井上氏は、日本ではなくエストニアに法人を設立しました。10歳の頃に起業体験イベントに参加した経験から起業に興味を持つようになり、若い起業家が多いエストニアに着目します。起業を後押しする教育や環境が整っている同国を実際に自分の目で確かめたいと考え、渡航することを決意。クラウドファンディングで渡航費の調達に成功します。現地でさまざまな起業家や投資家と交流し、そこで得た経験から、エストニアで会社を設立します。
現在は、「つなぐ」をテーマに、誰でも未来に貢献できるサービスの開発を進めながら、イベントやワークショップを精力的に展開しています。
5.「株式会社GLOPATH(グローパス)」仁禮 彩香(起業当時:中学2年生)
仁禮氏は、「子どもによる子どものための子どもの未来創造企業」をスローガンに掲げて、中学2年生で株式会社GLOPATHを起業しました。小学校運営や企業との商品共同開発といったさまざまな事業を展開しており、高校1年生で自身の母校、湘南インターナショナルスクールを買収して経営を開始しました。
起業のきっかけとなったのは、小学1年生の時に日本の学校教育に対して抱いた違和感です。決められた答えを導き出すための教育に疑問を感じた仁禮氏は、画一的ではない新しい教育モデルを実現しようと、母親と相談し起業に踏み切っています。
現在は株式会社Hand-C(現TimeLeap)を設立・運営し、子供向け起業家教育プログラムを展開しています。日本の教育課題に真っ向から向き合う仁禮氏は、若手のアントレプレナーとしても注目を集めています。
まとめ
小学生や中学生によるこども起業は日本でも注目を集めており、こどもの起業を推進する取り組みも増えています。日本各地でジュニアビジネススクールやビジネスキャンプ、子供起業塾など起業を学ぶ機会が広がっており、子供ならではの想像力や行動力を活かした起業を後押ししています。
この記事で紹介した起業例には、子供に限らず、起業を視野に入れている人にとって多くのヒントが詰まっています。若手起業家の例や起業するまでの手順を紹介した記事も参考にしながら、自分の想いやアイデアを事業として形にしていきましょう。
子供の起業例に関するよくある質問
法律的に小学生は起業できる?
会社法では起業に対して年齢制限が設けられていないため、法律的には小学生の起業は可能です。ただし、法定代理人の同意や印鑑証明の提出が必要になることから、実質的に自分で起業できるのは15歳からと言えます。小学生の起業の場合、親子起業という形を取ることで、親が代表取締役として必要な手続きを行い、子が取締役に就任し業務に従事できます。
子供の起業におすすめのビジネスアイデアは?
子供の起業におすすめなのは、初期投資やリスクを最小限に抑えられるものです。例えば、ハンドメイド商品の販売や家庭教師ビジネス、無形商品・商材の販売、アフィリエイトやYouTube(ユーチューブ)収益化といった方法があります。このほかにも、学生向けビジネスモデルはたくさんあるため、自分にあったアイデアを見つけることが重要です。
子供向けの起業家教育プログラムとは?
子供向けの起業家教育プログラムとは、小中高校生を対象に、自ら社会課題を見つけ、解決に向けて挑戦できる力を育成することを目的とした授業やワークショップのことです。問題解決能力やチャレンジ精神といった精神面に着目したものから、事業計画書の作成など起業に必要なプロセスを学ぶものまで、さまざまなプログラムがあります。
文:Masumi Murakami イラスト:João Fazenda





