市場のニーズや消費者動向が変化し続けるなか、企業が成長を続けることは容易ではありません。東京商工リサーチの調査によると、2025年の企業倒産は1万300件にのぼり、2年連続で1万件を超えました。同調査は、物価高や人件費の上昇などが企業経営の課題であると指摘しています。
こうした課題に対応しながら成長を続けるには、自社の強みや市場環境を踏まえて適切な成長戦略を選択し、実行していくことが重要です。
この記事では、企業が活用できる代表的な成長戦略や、成長戦略を考える際に役立つフレームワークなどを詳しく解説します。

成長戦略とは
成長戦略とは、企業が売上や顧客基盤、市場シェア、企業価値などを中長期的に向上させるために定める方針です。売上やAOV(平均注文額)などの財務指標だけでなく、ブランド認知度や顧客ロイヤルティなどの非財務指標の向上も目指します。
適切な成長戦略は、企業の規模、利用できる経営資源、業種やビジネスモデル、市場での立ち位置などによって異なります。たとえば、利用できる資金や人員が限られている企業では、既存市場での顧客獲得や売上拡大を優先するほうが効率的ですが、十分な経営資源を持つ企業では、新しい地域や市場への進出に投資するほうが成長につながりやすい可能性があります。
企業の代表的な成長戦略
市場浸透
市場浸透とは、既存の市場で売り出している製品やサービスの販売を拡大し、市場シェアを高める戦略です。主な施策として、価格の見直し、まとめ買い割引の実施、ポイントの提供によるリピート購入の促進などがあります。
たとえば、菓子メーカーのカンロは、公式オンラインショップ「KanroPOCKeT」(カンロポケット)で、ポップアップイベントに合わせたクーポンの配信や、商品の再入荷時に購入希望者へ自動で通知する仕組みなどを導入しました。こうした販促施策を含むECサイトの改善により、2022年5月から年末のGMV(流通総額)は前年同期比175%となり、リピート率も1.3倍に向上しました。
市場開拓
市場開拓とは、既存の製品やサービスを、新しい地域や顧客層などをターゲットにして販売する戦略です。具体的には、国内で展開している商品を海外でも販売したり、法人向けに展開していた商品を個人向けにも販売したりします。
たとえば、日本発のライフスタイルブランドHer lip to(ハーリップトゥ)は、2018年にECサイトを中心に国内販売を開始した後、台湾や香港など8カ国に展開しました。Shopify(ショッピファイ)を導入して越境ECに取り組み、国や地域に応じてストアの表示や商品構成、価格などを調整したことで、越境ECの売上は半年で約400%増加しています。
製品開発
製品開発とは、既存の市場や顧客に向けた新製品を開発し、販売する戦略です。新製品の開発だけでなく、既存製品の改良や商品バリエーションの追加なども含まれます。
たとえば、日清食品は、既存のEC顧客に向けて即席麺以外の商品カテゴリーを拡充し、2019年に美容ドリンク「ヒアルモイスト」、2020年にはサプリメント「トリプルバリア」の販売を開始しました。こうした新商品の展開により、現在ではEC売上の半分以上を即席麺以外の商品カテゴリーが占めています。
多角化
多角化とは、新しい製品やサービスを新しい市場に投入し、既存事業とは異なる分野で成長を目指す戦略です。新しい収益源を確保できる一方、新製品の開発と新市場への参入を同時に行うため、市場浸透や市場開拓、製品開発に比べて、一般的にリスクは高くなります。
たとえば、楽器メーカーとして創業したYAMAHA(ヤマハ)は、その技術やノウハウを活用しながら、オートバイやスポーツ用品、リゾート、英語教室など、さまざまな製品やサービスを展開し、複数の市場へ事業領域を広げてきました。
販売チャネルの拡大
販売チャネルの拡大とは、商品やサービスを顧客に販売する経路を増やす戦略です。具体的には、実店舗を中心に販売している企業がECを開始したり、自社ECサイトに加えてECモールへ出店したりする方法があります。
たとえば、100円ショップのDAISO(ダイソー)は実店舗での販売に加えて、まとめ買いができるBtoB EC「DAISOオンラインショップ」を開設しました。その後、1点から購入したいという顧客のニーズに応え、2021年には「DAISOネットストア」も開設し、販売チャネルをさらに拡大しています。ネットストアでは全国配送や取扱商品の拡充などを進め、2022年4月から12月の売上は、2021年の同期間と比べて約400%増加しました。
M&A(合併・買収)
M&A(合併・買収)とは、他社との合併や、企業や事業の買収を通じて事業を成長させる方法です。自社だけで獲得するには時間のかかる技術や人材、顧客基盤、販売網などを取り込めるため、新市場への参入や市場シェアの拡大を加速できる場合があります。
たとえば、ソニーグループは2021年に、アニメ配信サービス「Crunchyroll(英語)」(クランチロール)の運営会社を買収しました。その後、Funimation(ソニー傘下のアニメ配信サービス)とのサービス統合などを進め、アニメのDTC(消費者に直接サービスを提供すること)事業を強化しています。現在では、Crunchyrollをアニメ事業の成長を支える重要なサービスのひとつに位置づけています。
戦略的パートナーシップ
戦略的パートナーシップとは、企業同士が互いの技術、顧客基盤、販売網、専門知識などを活用し、共同で成長を目指す取り組みです。業務提携や資本提携、合弁会社の設立、製品の共同開発、共同マーケティングなど、さまざまな形があります。
たとえば、小柄な女性向けファッションブランドのCOHINA(コヒナ)は、革小物ブランドのHASHIBAMI(ハシバミ)とコラボレーションした商品を展開しています。HASHIBAMIの人気商品をベースに、バッグのサイズやショルダーベルトの長さなどを小柄な女性向けに調整することで、両ブランドの特徴を生かした仕様となっています。
価格戦略
価格戦略とは、自社の顧客層や市場での立ち位置、需要などに応じて商品やサービスの価格を調整する戦略です。値下げによって購入のハードルを下げるだけでなく、ブランドの付加価値を示すために価格を高めに設定したり、需要に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングを導入したりする方法があります。
たとえば、JリーグのFC町田ゼルビアでは、試合ごとの需要に合わせてチケット価格を調整するダイナミックプライシングを導入しています。注目度の高い試合と集客に課題のある試合で価格を調整し、販売機会と入場料収入の最大化を図っています。
現代のビジネスで注目される成長戦略
リファラルマーケティング
リファラルマーケティングとは、既存顧客から家族や友人などへの紹介を通じて、新規顧客の獲得につなげる戦略です。具体的な方法として、紹介者や紹介された人に割引やポイントなどの特典を提供する紹介プログラムがあり、顧客による口コミや紹介を促します。
たとえば、通販事業を展開するベルーナは、既存顧客が友人を紹介できるキャンペーンを実施しました。2025年のキャンペーンでは、紹介によってクーポンを受け取った顧客の約75%が対象ブランドで初めて購入する新規顧客となり、キャンペーン経由のROAS(広告費用対効果)も想定の1.2倍以上となりました。
PLG(プロダクト主導型成長)
PLG(プロダクト主導型成長)とは、Product-Led Growthの略で、営業による売り込みではなく、製品やサービスそのものの価値や体験を通じて、顧客の獲得や維持につなげる戦略です。具体的には、製品の無料サンプルを提供したり、フリーミアムでサービスの一部を無料で体験してもらったりする方法があります。
たとえば、アイウエアブランドのJINS(ジンズ)は、オンラインでメガネを試着できる「JINSVIRTUAL-FIT」(バーチャルフィット)などのサービスを展開しています。購入前に自宅で商品を試せる環境を整えることで、商品体験そのものが購入判断を後押しする仕組みを構築しています。
新カテゴリーの創出
新カテゴリーの創出とは、既存の商品カテゴリーで競争するのではなく、新しい製品やサービスのカテゴリーや市場を生み出し、その市場で先行する戦略です。市場開拓や製品開発とは異なり、これまで明確に存在しなかった商品カテゴリーを形成し、新たな需要を生み出すことを目指します。
たとえば、大塚製薬は1980年に「汗の飲料」という新しいコンセプトでポカリスエットを発売しました。同商品は水分と電解質を補給する飲料という価値を訴求し、結果として「イオン飲料」という新たな商品カテゴリーを生み出しました。発売2年目には大ヒット商品となり、現在では20以上の国と地域で販売されるグローバルブランドへと成長しています。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、顧客にとって役立つコンテンツを継続的に発信し、認知や信頼を高めながら、商品購入や顧客との長期的な関係構築につなげる戦略です。具体的な施策として、ブログ記事の作成や、YouTube(ユーチューブ)などでの動画配信、SNSでの投稿などがあります。
たとえば、ECとメディアを融合した「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムは、商品の販売だけでなく、暮らしに関する読みものや動画、スタッフによる商品レビューなどを、サイトやInstagram(インスタグラム)などで発信しています。さまざまなコンテンツを通じて顧客との接点を増やし、ブランドへの愛着を深めながら、商品との出会いや購入につなげています。
成長戦略を実践する6つのステップ
1. 市場調査を行う
市場調査を行い、顧客のニーズや市場の動向、競合の状況などを確認します。市場や顧客の実態を把握することで、具体的な取り組みを定めやすくなります。
市場規模や消費動向などのデータを調べる際は、以下のような公的な情報源を活用できます。
- e-Stat(政府統計の総合窓口)
- 経済産業省の統計
- 総務省統計局の統計データ
また、ターゲット顧客の関心や競合の状況を調べる際は、以下のようなツールを活用できます。
- Googleトレンド:商品やサービスへの関心の推移を確認する
- Googleキーワードプランナー:関連キーワードや検索ボリュームを調べる
- Similarweb(シミラーウェブ):競合サイトのトラフィックや流入経路などを分析する
こうしたデータに加えて、顧客へのインタビューやアンケート、商品レビューなども確認することで、数値だけでは分からない顧客のニーズや課題を把握できます。
2. SMART目標を設定する
次に、具体的な目標を設定します。目標設定には、以下の5つの要素からなる「SMART」のフレームワークを活用できます。
- Specific(具体的):何を達成するのかが明確である
- Measurable(測定可能):数値などで達成状況を確認できる
- Attainable(達成可能):達成が現実的である
- Relevant(関連性がある):成長戦略や事業の目的に直結している
- Time-bound(期限が明確):達成までの期限が決まっている
たとえば、製品開発を成長戦略として定めた場合、「新商品の売上を伸ばす」という目標では不十分です。「新商品の発売から3か月以内に500万円の売上を達成する」のように、達成する内容や数値、期限を具体的にします。目標額が過去の販売実績や生産能力などを踏まえて現実的かどうかも確認します。
3. 実行計画を作成する
目標を設定したら、達成するために必要な施策を実行計画に落とし込みます。計画には以下のような要素が含まれます。
- タスク:目標達成に必要な施策を具体的なタスクに分割する
- 期限と担当者:誰がどのタスクをいつまでに行うのかを決める
- 経営資源:計画の実行に必要な予算や人員を確認する
- タスクの前後関係:どの作業を先に完了させる必要があるかを整理する
- リスク対策:想定されるリスクを洗い出し、対応策を検討する
たとえば、新商品をECサイトで販売する場合、商品ページの作成、在庫の準備、広告の制作などの作業を洗い出します。また、スムーズに販売を開始するため、広告の掲載や配信を開始するより前に、商品ページや在庫の準備を済ませておく必要があります。
4. KPIを設定する
目標達成に向けた進捗を確認するために、成長戦略に合わせたKPI(主要業績評価指標)を設定します。たとえば、製品開発を戦略とする場合は、新商品のCVR(コンバージョン率)や売上成長率、売上に占める割合などをKPIとして設定できます。一方、市場浸透を戦略とする場合、新規顧客数、CAC(顧客獲得コスト)、LTV(顧客生涯価値)などをKPIとして設定できます。
ECプラットフォームや分析ツールには、CVRやリピート率などの指標を自動で集計し、推移を確認できるものもあります。たとえばShopifyでは、管理画面でオンラインストアのコンバージョン率を確認できます。
5. 施策を実行し、検証する
実行計画に沿って施策を進め、結果を検証しながら改善を重ねます。たとえば、商品ページの構成やメールの内容などについてA/Bテストを行えば、成果につながりやすいものをデータから判断できます。
効果が確認できた施策は継続し、必要に応じて条件や内容を変えながらさらに検証します。その過程で、繰り返し発生する作業を自動化することで、業務を効率化できます。たとえば、Shopifyストアでは、ShopifyFlow(対応言語は現在英語のみ)を利用して、在庫切れ商品の非表示や在庫が少なくなった際の再注文などを自動化できます。
6. 定期的に戦略を見直す
成長戦略は一度決めたら終わりではなく、KPIの推移や市場環境の変化を確認しながら、定期的に見直すことが重要です。
たとえば、製品開発を戦略として進めていても、新商品のCVRや売上が想定を下回っている場合は、個別の施策を改善するだけでなく、戦略そのものが適切かを検討します。また、市場の需要や競合の状況が大きく変化した場合は、製品の方向性やターゲットを見直したり、別の成長戦略へ重点を移したりすることも選択肢になります。
定期的に成果を振り返り、必要に応じて施策や戦略を修正することで、変化に対応しながら成長を目指せます。
成長戦略を検討する際に役立つフレームワーク
アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスは、企業がどの方向で成長を目指すかを整理するフレームワークです。「市場」と「製品」の2つの軸を、それぞれ「既存」と「新規」に分けて組み合わせ、成長戦略を以下の4つに分類します。
- 市場浸透:既存市場で既存製品の販売を伸ばす
- 製品開発:既存市場に新しい製品を投入する
- 市場開拓:既存製品を新しい市場で販売する
- 多角化:新しい製品を新しい市場に投入する

SWOT分析
SWOT分析は、自社の現状を整理し、今後の戦略を検討するためのフレームワークです。内部環境と外部環境を、以下の4つの要素に分けて整理します。
- Strength(強み):優秀な人材や技術力、ブランド力など、自社の競争力につながる内部環境
- Weakness(弱み):人材不足や技術面の課題など、自社の成長を妨げる可能性がある内部環境
- Opportunity(機会):市場の成長や需要の変化など、自社にとって追い風となる外部環境
- Threat(脅威):競合の増加や市場環境の変化など、自社にとってリスクとなる外部環境

PEST分析
PEST分析は、企業を取り巻く外部環境を整理し、今後の事業機会やリスクを検討するためのフレームワークです。外部環境を、以下の4つの要素に分けて分析します。
- Politics(政治):法規制や政府の政策など
- Economy(経済):景気や為替、物価など
- Society(社会):人口動態や消費者の価値観、ライフスタイルの変化など
- Technology(技術):技術革新や新しいテクノロジーの普及など

バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、顧客に価値を提供するための一連の企業活動を分解し、どこに強みや改善点があるかを把握するためのフレームワークです。企業の活動を、大きく以下の2つに分けて分析します。

まとめ
成長戦略は、企業が中長期的に事業を拡大していくために、どの市場で何に取り組むかを定める方針です。市場浸透や製品開発などさまざまな選択肢があるため、自社の強みや市場環境を整理し、適した戦略を検討することが重要です。アンゾフの成長マトリクスやSWOT分析などのフレームワークも、自社の置かれた状況を整理したり、今後の方向性を検討したりする際に役立ちます。
成長戦略を定めた後は、目標や実行計画を具体化し、施策の実行と検証を重ねます。市場環境の変化を踏まえて施策や戦略を定期的に見直すことで、継続的な成長につなげやすくなります。
企業の成長戦略に関するよくある質問
成長戦略とは?
成長戦略とは、企業が中長期的に事業を拡大するために、今後の方向性や重点的に取り組む領域を定める方針です。
成長戦略はどう策定する?
成長戦略を策定するには、フレームワークなどを活用して、自社の強みや弱み、市場環境などを多角的に分析します。そのうえで、顧客ニーズや競合の状況なども踏まえ、自社がどの市場で何に取り組むべきかを検討します。
成長戦略を実践する手順は?
- 市場調査を行う
- SMART目標を設定する
- 実行計画を作成する
- KPIを設定する
- 施策を実行し、検証する
- 定期的に戦略を見直す




