先延ばし癖は、起業家にとってアイディアを形にする行動や事業の成長を妨げる要因になります。タスクを後回しにする習慣が続くと、進捗の遅れや機会損失につながってしまうためです。
この記事では、先延ばし癖が生じる主な原因や先延ばし癖のある人の特徴、直すための対策を解説します。
先延ばし癖の原因

「先延ばしにつながる意思決定に影響する行動選択肢への評価」という研究では、先延ばしをした場面ほど「まだ間に合う」「あとでいい」と考えやすく、目の前のやりたい行動を優先したくなる傾向が高いことが示されています。また、こうした傾向から、先延ばしは「まだ大丈夫」という楽観的な考えや「楽しいほうを選びたい」という気持ちに押されて起こりやすいことが示唆されています。
また、「先延ばし過程における意識の変化の探索的検討(1)」では、先延ばしを性格やだらしなさといった個人の特性だけで説明する見方には限界があると述べられています。たとえば、先延ばしをしている間は「課題のことを忘れていて楽しく過ごせる」反面、先延ばし後に後悔する可能性があることも示されています。加えて、先延ばし中でも課題が気になって焦りや不安を感じ、課題を再開する場合があることにも触れられています。
先延ばし癖のある人:5つのタイプ
先延ばし癖のある人に見られやすい代表的な行動パターンは、以下の5つのタイプです。
快楽追求型:
快楽追求型は、やるべき作業よりも「楽しいこと」や「気分が良くなる行動」を優先してしまうタイプです。締め切りが迫ったときに一気に進める高揚感を味わうため、あえて作業を後回しにすることもあります。
楽観型:
楽観型は、「何とかなる」と考えやすく、先延ばししても問題にならないだろうと考えてしまうタイプです。計画を立てなくても物事は進むと考え、行動に移すタイミングを逃してしまう傾向があります。
多忙型:
多忙型は、忙しさを理由に重要なタスクを後回しにしてしまいます。予定を過度に詰め込むことで「行動している感覚」を得られますが、優先度の高い作業に十分な時間を割けていないケースが見られます。
完璧主義型:
完璧主義型は、完璧主義の高さが先延ばし癖につながりやすいタイプです。自分が求めている高い基準を満たせるだけの時間がないのではと不安になり、作業の開始そのものを遅らせてしまいがちです。
回避型:
回避型は、失敗や評価への不安や恐れからストレスを感じやすく、先延ばし癖が強まりやすいタイプです。悪い結果を想像してしまい、心理的な負担を避けるためにタスクに取り組まない傾向があります。
先延ばし癖を直すための11の対策

1. 先延ばし癖を認める
先延ばし癖を改善する第一歩は、自分に先延ばし癖があると認識することです。無意識のまま行動を後回しにしている状態では、具体的な対策を考えづらくなります。
タスクを後回しにしたくなったときに、どのような感情や思考が浮かんでいるのかを把握しましょう。「ほかのことを優先したくなった」「今やらなくても問題ないと考えた」など、きっかけを言語化すれば、先延ばしが起こる原因を特定できるでしょう。
2. 目標に立ち返る
先延ばしを減らすには、まず目標に立ち返り、いまのタスクが何につながるかを確認しましょう。やるべきタスクを終えたときのメリットが実感できないと、先延ばしが起こりやすくなります。タスクをこなす意味が見えない状態では、今すぐ取り組む理由を見いだしにくいためです。
短期目標と中長期目標を整理し、現在のタスクがどの成果につながるのかを確認します。あわせて中間目標を置き、大きな目標を小さな作業に分けると、取りかかりやすくなります。
3. 先延ばしによる不利益を「現在の問題」にする
先延ばしで生じる不利益を現在の問題として捉えなければ、今すぐ行動を起こしにくくなります。先延ばしの結果を具体的にイメージできないと、目の前にあるやりたくないことを「後回しにしたほうが大変だ」と理解しづらいためです。
まずは、タスクを後回しにした場合に何を失うのかを考えてみましょう。たとえば、着手が遅れることで機会を逃す、納期の遅延が続いて信頼を失うなど、先延ばしの結果を現実的なリスクとして捉えます。また、「始めてしまえば不安やストレスは和らぎやすい」と理解しておけば、作業に取りかかるハードルを下げられます。
4. 仮の締め切りを設定する
実際の期限とは別に前倒しの締め切りを設定すると、締め切り直前に集中しやすいタイプの人は行動を起こしやすくなります。期限が迫る状況を意図的に作ることで、「やるしかない」という状態になり、作業を進めやすくなるためです。たとえば、正式な締め切りの数日前を仮の締め切りにし、その日までに下書きを終える、または8割まで進めるなど、具体的な目標を決めます。
ただし、この方法だけで先延ばし癖がなくなるわけではありません。仮の締め切りを実際の期限より前に置けば、締め切りのプレッシャーを感じつつ時間的な余裕も確保できるため、直前の突貫作業によるストレスや品質の低下を避けやすくなります。
5. ツールやアプリを活用する
Todoist(トゥードゥーイスト)やGoogle Tasks(グーグルタスク)などのタスク管理アプリやカレンダーなどのツールを使って、やることを見える化するのも先延ばし癖の直し方のひとつです。先延ばしが続く人ほど、カレンダーの管理が甘くなったり、ToDoの優先順位づけが雑になったりしがちです。予定やタスクを整理できていないと、何から始めるか迷って着手が遅れます。
カレンダーやToDoアプリを使い、作業内容や期限、優先順位を書き出しておくと、次にやることが明確になり、業務効率化につながります。また、通知やタグ、カテゴリ分けなどの機能を使えば、抜け漏れも減らせます。
集中が続かない場合は、短時間の集中と休憩を繰り返す「ポモドーロ・テクニック」を試してみるのも有効です。タイマーやアプリで時間を区切ると、作業を始める心理的な抵抗が和らぎます。
6. タスクを細分化する
タスクが重く感じて動けないときは、まず作業を細かく分けてみましょう。タスクの全体像が見えていないままだと、何から手をつけるべきか判断できず、心理的な負担が増えて先延ばしが起こりやすくなります。
こうした場合は、タスクをできるだけ小さく分解し、短時間で終えられる形に落とし込みましょう。たとえば、資料を作成するタスクであれば、「作成する目的を具体化する」、「構成案を作る」などに分けられます。
タスクを細分化すると、一つひとつの作業に取り組みやすくなるだけでなく、達成感が生まれて次の作業にも勢いがつきやすくなります。
7. 先延ばしを生産的にする
先延ばしを無理にやめようとするのではなく、別の必要な作業へ意識的に切り替える方法も効果的です。たとえば、目標の達成に近づくための別のアクションを取ることができれば、先延ばしの時間が無駄になりづらくなります。
ここで注意したいのは、何度も確認するだけの行動です。ネットショップの平均注文額やコンバージョン率などの数字を眺める、同じ画面を何度も見直すといった作業は、仕事をしている気分にはなれますが、成果につながりにくい場合があります。
たとえばECサイトの構築が進まないとき、何も考えずにSNSを眺める代わりに、Pinterest(ピンタレスト)でデザインの参考事例を集めたり、競合サイトを見て構成や導線をメモしたりするなど、関連する作業を行います。現在抱えているタスクをこなしているわけではありませんが、次の工程をスムーズに進めるのに役立ちます。
8. 着手のハードルを下げる
作業を始めやすい環境を先に用意すると、先延ばししがちな人ほど着手が楽になります。作業場所を変える、音楽やホワイトノイズを流すなど、自分が集中しやすいパターンをいくつか持っておくのが効果的です。また、机の上に不要な物を置かない、スマートフォンを視界に入らない場所へ移動するなど、注意がそれる要因を減らすのも有効です。
先延ばし癖のある人にとって難しいのは、作業そのものより作業を始めることです。いったん動き出せれば、その後はリズムに乗って進めやすくなります。
9. 最初から完璧を求めない
最初から完璧なものを出そうとすると、行動までのハードルが上がり、作業が止まりやすくなります。特に、完璧主義の傾向がある場合、細かい部分が気になって着手できなかったり、必要以上にタスクを増やしてしまったりすることが少なくありません。
先延ばしを防ぐためにも、最初から完成形を目指さず、まずは「形にすること」が大切です。最低限どこまで整っていれば出せるか、短時間で出せるものは何かを先に決めておくと、作業を進めやすくなります。不具合や改善点は、あとから直せます。たとえばネットショップなら、まずは公開して、利用者の反応を見ながら改善点を洗い出すと、直すべき箇所を絞りやすくなります。
10. 勢いを味方にする
先延ばしを防ぐには、まず短時間で終わる作業を片づけて、勢いを作るのが効果的です。退屈だったり難しかったりする作業ほど、最も大変なのは「始める瞬間」です。一度手を動かし始めてしまえば、不安や気の重さは意外と早く小さくなっていきます。いくつか作業を完了させれば達成感が生まれ、次の行動に移りやすくなるでしょう。
また、タスクを優先順位順に並べるだけでなく、最初に取り組む項目としてすぐに終わる作業を意図的に配置することも効果的です。
11. 第三者に進捗を報告する
目標と締切を第三者に共有し、定期的に進捗を報告する仕組みを作ることは、先延ばし癖の改善に役立ちます。起業家は作業を一人で完結させやすく、期限を先送りにしても指摘されづらい状況になりがちです。会社員のように締切を設定されたり、進捗を確認されたりする機会も少ないため、後回しが癖になりやすくなります。
対策として、友人や同業者などの作業仲間を見つけて、目標や期限を伝え、進捗を共有しましょう。相手は上司やクライアントである必要はありません。状況を共有できる相手がいるだけでも、意識が変わるでしょう。
また、自分自身を「自分のクライアント」だと捉え、進捗を記録する方法も有効です。タスクを書き出す、口に出すといった行為だけでも、「なにか報告できるものを作ろう」とモチベーションの向上につながりやすくなります。
まとめ
先延ばしをする人の中には、強いプレッシャーの中で、短時間で成果を出せる人もいます。しかし、その方法が続くと仕事の質や人間関係に悪影響を及ぼしかねません。締め切り直前の緊張状態を繰り返すことで、ストレスが蓄積しやすくなります。また、未完了のタスクを抱え続ける状態は不安や負担を増やし、精神面にも影響を与えてしまいます。
やるべきことを常に先送りしていると、短期的には楽に感じられるかもしれません。しかし、今取り組むことで得られるメリットも存在します。将来の自分に負担を残さないためにも、目の前のことをいつ実行するかを意識しながら、先延ばし癖と向き合っていきましょう。
先延ばし癖に関するよくある質問
先延ばし癖がひどいのはなぜ?
先延ばし癖がひどい原因として考えられるのは、以下のとおりです。
- タスクが簡単すぎる
- 失敗に対する不安が大きい
- ほかの誘惑に勝てない
- 完璧を求めすぎている
- ADHDの傾向がある
特に、行動しないことによる不利益を実感しにくい状況では、先延ばしが習慣化しやすくなります。まずは、どんな場面で先延ばしが起きているのかを整理し、原因を探しましょう。
何度も先延ばししてしまう原因は?
先延ばしが増える主な原因は、次のとおりです。
- やることが多すぎて圧倒されている
- タイムマネジメントが甘い
- ストレスや不安が強い
まずは何が引き金になっているかを考えましょう。タスク量が多すぎるのか、段取りが曖昧なのか、心身の負荷が高いのかを特定できると、対策を講じやすくなります。
仕事の先延ばし癖を直すには?
仕事の先延ばし癖を直すには、タスクの優先順位を明確にし、作業を細かく分解することが有効です。また、着手のハードルを下げる、「仮の締め切り」を設ける手法も役立ちます。終わったあとのご褒美を用意するのもよいでしょう。職場や上司への強いストレスが原因で先延ばしが慢性化している場合は、転職も検討する価値があります。
先延ばし癖の改善にアプリは役に立つ?
先延ばし癖の対策として、タスク管理や時間管理を支援するアプリを活用するのは効果的です。作業内容や期限を可視化できるため、「何から始めるべきか」を判断しやすくなります。また、タイマー機能で短時間だけ作業に集中することで、着手のハードルを下げやすくなります。
ADHDの先延ばし対策は?
- タスクを細分化する
- タスクを紙やアプリに書き出す
- 25分作業して5分休憩する「ポモドーロ・テクニック」を実践する
- 完了後に得られるごほうびを設定する
- スマートフォンの通知をオフにする
- 進捗を第三者に報告する
- 机の上を片付ける
文:Yukihiro Kawata





